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独
今日は特別な日だ。 今日中に彼女に言わなければいけない事がある。 正直、それを自分が言われたところで嬉しいのかと問われれば、今までの自分ならばどうだろうと思っていたことだろう。 だが四年前に生まれて初めて、嬉しいものなのだと教えられたものだから彼女にも嬉しいものだと思って欲しい。 きっと彼女は喜んでくれる。 だが“彼女”はどうだろう。 そもそも彼女には逢えるのかどうか、それもある意味“彼女”がその実権を握っている一部だと言わざるを得ない。 長い銀髪を靡かせて廊下を行くと不意に後ろから声を掛けられた。 慣れたくもないが、聞きなれたその声の主を彼女は知っている。 「マリー」 「私はソーマ・ピーリスだ」 振り返る為に揺れる銀髪の奥にはアレルヤの知っている穏やかな瞳ではなく、それと対になるようなキッときつい眼差し。 ソーマが主導権を握っているらしいとわかると、アレルヤは見てわかるほど落胆したような表情を見せた。 傍から見れば大変失礼な行動ではあるのだが、ソーマはもう慣れていた。慣れていたし、セルゲイを失ってからは徐々に出ていた感情をあまり揺り動かさなくなった。 だからこうしたアレルヤの態度にも特に何も、感じはしない。 「…ッ、…ごめんマリ…いや、ピーリス。あの、マリーに逢いたいんだけど駄目、かな」 懇願するようなアレルヤの瞳は何処か愛らしさを感じさせるが、ソーマには一切通じない。そもそも逢いたいと言われても何の拍子に自分達が入れ替わるのかもよくわかっていないのに、そのような事を言われても応えることは出来ない。 駄目だと言うようにゆっくりと首を横に振って、何も言わずに再び廊下を歩きだす。 少しばかり、悪いという気持ちはある。 アレルヤ・ハプティズムはマリー・パーファシーが好きで、マリー・パーファシーもアレルヤ・ハプティズムが好きなのだ。 その仲を引き裂くようにして存在している自分は、やはり誰にも必要とはされていないのだと実感させる。 だがそれでいいのだ。 超兵として生まれた自分には感情など一切無用なのだから。 だから、だからこそ二人には少し、悪いと思っている。 マリー・パーファシーと言う存在は、自分の中の一部である筈なのにソーマにとっては物凄く遠い存在に思えて仕方がない。 アレルヤ・ハプティズムは、もう一人の人格と脳量子波で会話をする事が出来ると言っていたし、もう一人の人格が表に出てくる時もあると言うのだが、自分とマリー・パーファシーの間にはそのような事が一切無い。 マリー・パーファシーが表に出ている時は、微かな記憶が残っているだけで殆ど何も、わかりはしない。同じ身体を共有しているのに、お互いの事を知りもしない。 その上超兵機関を破壊したあの男に好意を抱く理由も、わからない。 だから、悪いと思いつつもアレルヤにはあのような態度しかとれないのだ。 それでも追い掛けてくるアレルヤに、何を言ってやればいいのかもわからないし、そこまで気を回してやりたいとも思わない。 そもそも自分が此処にいる理由も、わからない。 セルゲイを失ってから、ソーマにはわからないことだらけだ。だがそれを教えてくれる相手もいない。 「ピーリス!…あの、じゃあ伝えて欲しいんだ」 「無理だ」 必死に呼びとめようとするアレルヤの声が、煩わしい。 無理難題を言われている訳でもないのだが、確実に伝えられるものでもない。それ故にソーマは振り返りもせずに、ただ一言告げるとアレルヤがそれでもと追いかけてくる。 重力の中を進んでいたソーマを追いぬかす様に反動をつけ、呼びとめるように腕を掴むがその手はすぐにソーマにより振りほどかれ、かわりに鋭い眼差しを向けられた。 「私に触るな」 「…ごめん。でも」 「私達は、お前達とは違う。だから無理だ、諦めろ。私ではマリー・パーファシーに伝えることは出来ないし、代わってやることも出来ない。だから用があるならば、向こうが出ている時に言え」 畳みかけるように表情も変えずにつらつらと述べると漸くアレルヤもわかったようで、再び落胆の色を見せた。いつもならば困ったような顔をしてわかったと聞き分けよく帰るものだが、今日はそのような兆しも見えず未だその場に立ち止まっている。 その理由をソーマがわかる訳もなく、かと言って特に知りたいとも思わないし、何よりどう尋ねたらいいのかがわからない。ソーマにとっての人付き合いはセルゲイ以外とは軍を通しての関わりであったが故に、軍の人間関係以上の事がわからないからだ。セルゲイは年上であったし、似たような年頃の者と話す機会などつい最近与えられたばかりだった。 不意に、アレルヤが伏し目がちだった顔を上げソーマに向き直る。やはりいつもソーマに対面する時のような、少し緊張した、困ったような表情を浮かべていた。 「あの…僕が君に言うのも変なんだろうけど。君はマリーと一緒だし、少し違うみたいだけれど僕とハレルヤのようなものだから、だからその僕達にとってそれが本当に生まれた日なのか、この世に生み出された日なのか、殺人兵器として登録された日なのか、それとも日付自体にそんなに意味はないのかとか、僕はそういうことはよくわからないんだけれど。それにその、僕は同胞をこの手にかけた男だからピーリスからしたら一番言われたくない相手だって事も、わかっているんだけど。それでもやっぱり君はマリーの一部だし、ピーリスの一部がマリーだし、だから」 一度口を開くと言いづらそうに、けれどどんどんどんどん、口数の少ないソーマからしてみれば、放っておけば一生喋っているのではないかと思うほどアレルヤが喋り出す。 至極言いづらそうに今更それを言うのかだとか、何を言いたいのかさっぱり意味がわからないだとか、そう考えながらもソーマはその場で立ち止まっていた。恐らくマリー・パーファシーに言いたかったのであろう事を、もしかしたら自分の意識を通じて彼女も聞いているかもしれないと思ったからだ。 だからこそ、ソーマは話を流していた。聞いているとこの回りくどさに腹が立ってくる。男ならば言いたいことは簡潔に言うべきだ。 「だから、その……誕生日、おめでとう」 「は?…………誕生日?」 「う、うん…5月21日」 「……そうか、それはすまなかったな」 アレルヤの一言に漸く彼が彼女に逢いたがっていた訳がわかった。 誕生日など、それこそ彼の言うとおり何の日付かもわからないのだがセルゲイが、折角だからと祝ってくれていた事を思い出して少しばかり胸が苦しくなった。あの時ばかりは自分も普通の人間で居られたのだと、思い出してしまった。 溢れだしそうになる涙をグッと堪えて、アレルヤから視線を逸らす。すると突然、再び腕を掴まれたが今度は振りほどけはしなかった。 「謝ることなんかじゃない。ごめん、ピーリス…。……ピーリス、誕生日おめでとう。マリーには、遅れてごめんって言うよ。ごめんピーリス、…ごめん」 妙に穏やかな声で、けれど切なそうに告げるアレルヤの手を解けなかったのは情が湧いたからなどでは無い。ただどうしようもなく、抑えきれない程両の目から涙が溢れて悔しくて奥歯を噛みしめた。 片腕で目許を擦って顔を見られないようにして、こんな事ならば気付かずにその日を過ごした方が幸せであったのに。 気付かされてしまったその日に、ソーマはまた独りになった。 FIN. ソマたん誕生日おめでとう。愛してる。 ソマリの脳内どうなっているかわからないので捏造です。 090521
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