その瞳が憎い



その瞳が憎い

ロックオンが右目を負傷した。
トレミー内のムードメーカーと言っても過言ではない上、スナイパーに取って重要な利き目とあってか艦内の空気は張り詰めていた。いつも何かと小言を言うティエリアが見た目に一番落ち込んでおり、それが尚更拍車を兼ねる。
当の本人はカプセル入りを断り、なるべく何でもない風を装っていた。
その姿は紛れもなくロックオン・ストラトスその人であるにも関わらず、右目の眼帯が痛々しく目立っていた。
大丈夫だと、ティエリアに告げてからアレルヤの部屋へ向かう。彼は、カプセル入りすべきだと言った。それはロックオンの身体を想ってという事はわかっていたが、自分がカプセル入りすることで増える負担、存命率を考えればとても素直に入る事などは出来ない。

「アレルヤ」
「ロックオン…」

アレルヤの部屋へ入り込み、まるで自分の部屋かのように固いベッドへ腰を掛ける。
右目の眼帯を見たアレルヤの瞳が一瞬揺らぐのをロックオンは見逃さなかったが、敢えて見なかった振りをした。

「何も言わないんだ」

黙ってしまうアレルヤに何か言葉を期待していた訳ではないが、何か言いたいことでもありそうに口をつぐむアレルヤへと視線を送る。するとアレルヤの手が、ギュッと力を込めるように握られ、絞り出すように俯きがちに言葉を発した後、ただ真っ直ぐにロックオンへと視線を向けた。

「取り乱してごめん、でも僕はもう何も言わないよ。一番辛いのは、貴方だ」
「そんなこと」

カプセル入りはしないと言った事を言っているのだろうとすぐにわかったが、続く言葉には一瞬返答に詰まった。まさかアレルヤからそう言われるとは思わなかったからだ。
確かにアレルヤは人の痛みに敏感な所はあるが、それ以上に鈍感で。何よりロックオン自身がアレルヤには気づかれないように振る舞っていた節がある。だからこそ、言葉に詰まった。詰まってしまい、凡庸な返事しか返せずに、図星であることを自ら露見してしまったとさえ思った。
仮にも恋人であるアレルヤに、露見したと思う方がどうかしているとも思うのだが、ロックオンは変な所で格好を付けたがる。そういう男だ。

「あるよ、僕が辛いと思う以上に貴方は辛いはずだ。皆の前では笑っていなければ心配を掛けてしまうし、戦えないと言えば皆に負担を掛けてしまう。他にも、貴方は皆の為に我慢してくれているのがわかっているから、だから僕は貴方に辛い思いをさせたくない。僕が辛いと思えば貴方はその何倍も辛いでしょう?それがわかっているから僕は貴方の決めた道を支えていきたいって…そう思ってる。勿論、無理をしている訳じゃない。僕が、そうしたくてするんだ」
「…かっこつけちゃって、ありがとよ」

いつになく饒舌なアレルヤの目は真剣だ。普段そう口数が多い方ではないアレルヤが言うからこそ、その言葉に重みを感じる。それと共に、いつまでも年下だ子 供だと思っていたアレルヤが一人の大人へと成長し、こうして自分を思ってくれることが嬉しくもあった。
そして何より、理解してくれていた。
腰掛けたアレルヤのベッドに寝転がり、いつもと違う景色を眺める。嗚呼、見えないというのはこんなにも不便なものなのか。不意にその視界がアレルヤによって塞がれる。
その身体を抱きしめて、抱き寄せて、その心地良い体温に酔いしれていた。
強く、緩く、緩急をつけるように抱き締めて、改めて感じるその温かさに無意識に涙が零れていた。

「アレルヤ、……有難う」

もう少し気のきいた言葉もあるだろうと、頭の隅で自分を詰りながらも大した言葉は出て来ずに、ただこれだけしか伝えることは出来なかった。
涙を零す己の姿等見られたくはなく、双眸を伏せアレルヤの身体を抱きしめて小さくすすり泣く。
何が悲しくて、何を思って泣いているのかはロックオン自身にもわからない。
恐らく辛かった、恐らく強がっていた、その不安を軽減させようとしてくれる人がいる。
それだけで、ただ嬉しかった。
それがアレルヤだから、尚更嬉しかった。
多分、理由はそれだけだ。






FIN.
091109
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